原爆の放射


山形県の川西町出身の劇作家、井上ひさしさんの「父と暮らせば」の 舞台を拝見する機会が先日ありました。広島の被曝者の苦しみを、 ユーモアを交えながら、しかし、丁寧に描いた作品でした。

劇の中で「父」は原爆瓦の話をしました。広島の原爆でできた火の玉の 熱線のため瓦の表面が融けてしまい、さらに、爆風などで融けた瓦がさ さくれ立ったようになって固まったという原爆瓦の話です。原爆でできた 火の玉の温度は1万2千度もあって、太陽の表面は6千度ですから、太陽二つ 分が広島上空にできたも同じで、その熱線の痛かったことと、 「父」が語ります。

火の玉からの放射は星からの放射と同じ性質を持っています。それで、 放射の強さは温度の4乗に比例すると言う性質があります。なので、温度が 二倍なら、実は放射の強度は16倍になります。なので、「父」が言うように 太陽二つ分でなくて16個分になるので、私にはさらに強く痛さが感じられま した。

ここでさらに天文学の基礎を続けましょう。放射の強さは光線に沿って 一定と言う性質があり、これは放射源のからの距離によりません。なので、 広島上空の火の玉を太陽の位置にもっていっても放射強度は同じです。 ただ、火の玉から受ける全エネルギーは、火の玉の見掛けの広さに比例し ます。なので、近いほど受けるエネルギーは大きくなります。原爆の火の玉は 太陽に比べてどれくらい大きく見えたのでしょう。

太陽以外の恒星はあまりにも遠くて、いくら望遠鏡で拡大しても点にしか 見えないものです。しかし、この放射の性質を使うと、星の温度と星の 明るさから星の見掛けの広さ、つまり、火の玉の大きさを計算することが できます。太陽の直径の何百倍もある星の存在はこのようにして見つかり ました。

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図1 火の玉から来る放射の強度とエネルギー
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