さそりの火


さそり座は天の川の西岸にあるので、夏の星座とはいうものの8月でなくて 7月の今の時期の方が見やすいです。陽が沈んでやっと暗くなった8時頃、 南の空に真っ赤なサソリの心臓であるアンタレスがすぐに見つかるとおもいます (図1)。

この星をみると宮沢賢治のこんなお話を思い出します。

むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎(さそり)がいて小さな虫やなんか殺して たべて生きていたんですって。するとある日いたちにみつかって食べられそう になったんですって。さそりは一生けん命にげてにげたけどとうとういたちに 押えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちて しまったわ、もうどうしてもあがられないでさそりは溺れはじめたのよ。その ときさそりはこういってお祈(いの)りしたというの、 「ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そして その私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。 それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。 どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちにくれてやらなかったろう。 そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。 こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸のために 私のからだをおつかい下さい。」

そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えて夜 のやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さんおっしゃ ったわ。ほんとうにあの火それだわ。 (宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」より)

そのさそりの火はよっぽど長く燃えているのでしょう。 すぐ横にあるM4と呼ばれる星の集まり(図2)は、 宇宙の年齢に近い130億年もの間燃え続けています。 ハッブル望遠鏡と電波望遠鏡を合わせることで、その中に白色わい星という種類の 小さな星があり、それよりさらに小さい中性子星という種類の星がその回りを公転 してしていることが見つかりました。さらにその中性子星の回りにもっと 小さい木星くらいの大きさの惑星が回っていることが発見されました。これは宇宙の 始まりのころにもう惑星が誕生していた強い証拠です。



参考:M4にはPSR B1620-26と白色矮星の連星系があり、そこに惑星が見つかって いる。

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図1 7月下旬の午後8時頃の南の空(ステラリウムを用いて作図)
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図1 アンタレスのすぐ隣りにあるM4という星団。オレンジ色の枠の拡大写真の
なかの青い枠の中、緑の円の中に小さな惑星が見つかっています。
(NASA提供)
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総合スライド(よりきれい)
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