南極老人星を見る

画像をクリック(拡大)

図1 南極老人星(ステラリウムを用いて作図)

図1は、おなじみの冬の星座です。 三ツ星とそれを囲む4つの星が奇麗なオリオン座、 そして、全天で一番明るいシリウスが真南、もっとも高い位置に昇っています。 さて、南の地平線すぐ下に、シリウスに次いで全天で二番目に明るい星が潜んでいるのをご存知でしょうか。 りゅうこつ座のカノープスです。中国では「南極老人星」と言い、 これを見た人は長生きできるといいます。 この言い伝えや地平線をかすめるこの動きを知るとなんとしても見たくなります。

この星の天の緯度(専門用語では赤緯)を調べると南52.7度となっています。 これに観測値の緯度を足したものが90度だとちょうど地平線、90度より多いと見えないことになります。 酒田市は北緯38.5度ですので結果は91.2度となり南極老人星は見えません。 皆さんも自分の居るところの緯度を調べてみてください。 静岡県くらいまで行くと楽に見えることがわかります。 東北では郡山市くらいが限界と言われています。

図2 大気による星からの光の屈折 x適当にトリミングしたり縮小すること可
画像をクリック(拡大)

図3 山からみたときの地平線 x適当にトリミングしたり縮小すること可
画像をクリック(拡大)

しかし、ここの救世主が現れます。 図2をご欄下さい。星の光が宇宙から来る時、地球の大気によって屈折し 浮かび上がってみえます。 本当ならbの星が限界なのですが、屈折のためaの星も実際は見えます。 地平線近くでは0.5度くらい浮き上がって見えます。 このおかげで南極老人星の見える北限は56kmくらい北に移ります。 それでも山形で見るのは無理ですね。

少し考えると高い山に登ったらもう少し見えるのでないだろうか、と考えたくなります。 図3のように高い山に登るとaの星が見えます。 どれくらいの高さに昇ればどれくらい地平線下が見えるか計算してみました。 すると、1000メートルの山だと、1度下までみえることがわかりました。 これは大気の屈折よりも効果がありますね。 鳥海山は2236メートルですので1.4度くらい助かりますので、 大気差とあわせて1.9度ほど助かりますので山形でもぎりぎり南極老人星 が見える可能性がでてきました。

南極老人星が顔を見せる時間は日によってかわりますが、 シリウスが最も高く登る時間の21分前と覚えておくとよいでしょう。 例えば、今日ですと午前3時25分、大晦日ですと除夜の鐘をついている、 午後11時22分頃です。大晦日に南極老人星をみたら お正月に何かいいことありそうですね。


references
図1 南極老人星(ステラリウムを用いて作図)
http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/288-fig1.jpg
図2 大気による星からの光の屈折
http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/288-fig2.jpg
図3 山からみたときの地平線
http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/288-fig3.jpg
パワポ
http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/288-fig.pptx



参考:

一般に、大気差の公式は理科年表より、
R=R_0 tan Z +R_1 tan^3 Z

Z=zenith distance (Z=90近くは使えない公式 80くらいまで)
一次の項では R_0= (1-n)(1-H)
で n は大気の屈折率で 1-n = 10^(-8) C (P/T) ( 1+ higher order terms )
C= lambda dependent const.
なので、圧力と温度で決まることになる。
表では 高度0で 34.'24"" 
高度 10°で 5'17"

山の高さは図の幾何より cos theta = R_E / (R_E + h)
の一次近似で (1/2) theta^2 = h/R_E

hは山の高さ、R_Eは地球の半径

上より theta = sqrt (h/1km) degree と覚えやすい結果になる。