前回は、ある天体が明け方の空に初めてその姿を見せる現象「ヘリアカル・ラ
イジング」についてお話ししました。では、どうしてヘリアカル・ライジング
の記録が年代を決めるヒントになるのでしょうか。

古代エジプトの人々にとってナイル川が氾濫を起こす時期を知るのは大変大事なことでした。
そこで注目されたのが、一番明るい星であるシリウスのヘリアカル・ライジングの日、つまり、
シリウスが明け方の空に初めて見える日でした。

一方で古代エジプトのカレンダーは、図1のように一年に3つの季節、
アケト季、ペレト季、シェムウ季を設け、
それぞれに4つの月がありました。
これで、一年は12ヶ月になります。
ひと月は30日と決められていましたので、
全体として30日かける12で350日になりますが、これでは不足しますので、
さらにエパゴメン(付加日)とよばれる5日を追加して、
一年を365日としていました。

このカレンダーには閏年がありません。
一年の長さは365日より少し長いため、4年間に1日くらいの割合で
シリウスのヘリアカル・ライジングがずれていきます。
ある年のアケト季1月1日にシリウスのヘリアカル・ライジングがあったとします。
それから480年後に観測すると、
シリウスのヘリアカル・ライジングは120日ずれてペレト季1月1日になっているでしょう(図1)。
4年と365日をかけた1460年ほど経過するともとのアケト季1月1日に戻って来ます。

西暦139年のアケト季1月1日にシリウスのヘリアカル・ライジングがあったという記録があるので、
これを基準にして、その1460年前の紀元前1321年、さらに、1460年前の紀元前2781年の
アケト季1月1日にシリウスのヘリアカル・ライジングがあったというふうに過去にたどれます。

図2を参考に考えると、例えば紀元前二千年から一千年ころの記録に、
シリウスのヘリアカル・ライジングがペレト季1月1日であったとあれば、
この年は紀元前2781年から480年後の紀元前2301年ということになります。

実際は歳差運動という微小な変化を計算に入れますが、
一方で、観測地点がどこかという不定性があり、
天候などで最初にシリウスが見える日も2、3日は天候などでずれる可能性があるので、
確実にこの年と決定することはできません。

シリウスのヘリアカル・ライジングの記録はたくさんあるのでこの方法で天文学は考古学における
年代決定貢献しています。




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図1 古代エジプトの暦(枠の中は古代エジプト文字で季節の名前を表したもの) http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/569-fig1.jpg
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図2 西暦年号とヘリアカル・ライジングの変化の関係図 http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/569-fig2.jpg
本文終わり
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