超新星残骸Cas A のX線偏光 (No. 748)

date 2022 11 23
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銀河系の中で超高エネルギーの粒子が作られていることがわかっています。
そのエネルギーは一粒あたり千兆電子ボルトもありますが、
そう言われてもどのくらいのエネルギーなのか想像できません。
少しエネルギーの計算をしてみたところ、
この超高エネルギー粒子が1グラムあれば、
日本の全世帯の電力を126年間賄えることがわかりました。
これが手に入ればCO2削減問題など一気に解決ですね。

そこでこの粒子がどのようにして宇宙で作られているのかが関心の的となります。
一つの候補天体は図1のカシオペアAと呼ばれる超新星残骸です。
大きな質量を持つ星は最後に超新星爆発という大爆発を起こして、
その爆風が衝撃波となって宇宙空間に広がります。
そこに磁場があると、あるいは、なければそこで磁場が作られると、
お目当ての超高エネルギー粒子が作られるという理論があります。

磁場というのは、台所の冷蔵庫などにくっついているマグネット(磁石)の持っているものです。
衝撃波のところで欲しい磁場は冷蔵庫のマグネットよりずっとずっと弱いものでいいのですが、
とにかく磁場があって欲しいのです。
磁場があると、電子や陽子など電気を持った粒子はくるくる円運動をして、
そこからシンクロトンと呼ばれる光を放射します。
シンクロトロン光は偏光しているのが特徴です。
そしてその光はX線でよく見えます。

そこで登場するのは昨年末に人工衛星として打ち上げられたIXPEというX線宇宙望遠鏡です。
これまでにもこのコーナでX線宇宙望遠鏡をいくつも紹介してきましたが、
それらは偏光を測定することができません。
しかし、このIXPEという望遠鏡はそれができるという新作です。
そして、カシオペアAの磁場の観測に成功したことが先月12日の
アストロフィジカルジャーナル誌に発表されました。
まだまだ感度が十分とは言えないぎりぎりの観測ですが、
画期的なことです。

磁力線の方向は概ね放射状でした。
ちょうど自転車のスポークのような方向です。
偏光度は低いことから絡まったような複雑な磁力線が予想されます。
さて、これをヒントに疑問が解明ができるでしょうか。
どのように超高エネルギー粒子が作られるのでしょう。
今後の研究が楽しみです。
山形大学の研究チームもこのIXPEというX線宇宙望遠鏡のプロジェクトに参加しています。
他の研究成果が出たらまたご紹介したいと思います。







図1 X線画像(チャンドラX線望遠鏡によるカシオペアA(提供:NASA) http://www.shibatashinpei.jp/lib/yamashin/748-fig1.jpg
図2 X線偏光によってわかった磁場の方向は放射状で自転車のスポークのようだった (提供:NASA)画像のクレジットに記載されていますが。 http://www.shibatashinpei.jp/lib/yamashin/748-fig2.jpg 本文終わり   
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パワポ http://www.shibatashinpei.jp/lib/yamashin/748-fig.pptx references will be note-748 748-ref1.pdf Vink, J., Prokhorov, D., Ferrazzoli, R., et al.\ 2022, \apj, 938, 40. doi:10.3847/1538-4357/ac8b7b 748-ref2.pdf Rosenberg I., 1970 MNARS 151, 109