(前回までのあらすじ:図1
大地母神デーメーテール(おとめ座)の娘ペルセ
ポネは冥界の王ハデスに連れ去られます。それを
仕組んだのは夫であることがわかりデーメーテー
ルは怒りのあまり神の国を去り「引きこもり」に
なってやせ細っていきました。)
		
画像をクリック(拡大)
図1 おとめ座物語 I (絵: 福島 茂良)
おとめ座物語 II

大地母神デーメーテールがやせ細るということは
大地がやせ細ることです。畑では麦の実ひとつ稔
らなくなってしまい、飢えのために人間が滅びそ
うになります。そして、神にささげる物もなくな
ります。


人が神にささげる物がないと神が困るというのは
クスッと笑える話なのですが、とにかく、ゼウス
は困ってしまい、神々に命じ、デーメーテールに
神の集いに戻るよう説得させます。彼女は娘と再
会するまでは決して天にも昇らず、大地に稔りを
もたらさないと答えます。困ったゼウスは、神々
の使者ヘルメスをハデスのところに急行させ、ペ
ルセポネを母親のもとに返すようたのませます。

ハデスはゼウスの命令におとなしく従うかのよう
でした。しかし彼は、母の胸に帰ることができる
喜びで有頂天のペルセポネに、こっそりとザクロ
の実を食べさせます。さあ、冥界のものを食べる
ことは由々しいことです。

日本書紀にも似た考えが出てくるのですが、あの
世の食べ物を口にしたものは二度とこの世に戻れ
ないと信じられていました。あの世に行ってしま
ったイザナミノミコトが夫のイザナギノミコトに、
「なんではやく助けにきてくれなかったのよ。私
はもうあの世の食べ物を口にしてしまったじゃな
いの。」と言ったという話があります。

こうしてペルセポネは冥界を離れられないことに
なります。しかし、ゼウスが彼女に対し、一年の
三分の一を夫ハデスのもとで過ごし、三分のニは
母や神々のそばで暮らすことをゆるしましたので、
ようやくデーメーテールの怒りもとけ、畑もふた
たび麦の穂を出し始めたのです。

これは一年間の麦の成育を説明する話になってい
ます。大地母神のデーメーテールの娘ペルセポネ
は麦にほかならず、秋に蒔かれて地下に身を隠し、
春先に芽をふいて帰還するという自然の推移が、
哀切な母親の物語として語られているのですね。


図2 おとめ座物語 II (絵: 福島 茂良)
画像をクリック(拡大)