水星はなんで水星?


やまがた天文台で星空案内をしていると、ときどき難しい質問が出てきて、 わかりませんとお答えするしかないときがあります。 先日は、「水星はなんで水星とよばれるんですか」という 質問があって困ってしまいました。

おびただしい数の恒星たちは互いに位置を変えることが無く、決まった並びを しているので、その並びかたを利用して星座が作られました。 縄文のむかしから、5つの天体だけが星座とは違って独自の動きをする星と して認識されていました。五惑星です。そのなかでも星座の中を最も素早く動く 惑星は水星です。

図1は今年3月7日の18時ころの西の空で金星と木星と水星が見えています。 最近特に明るさを増して夕方西の空に輝く金星はみなさもお気付きとおもいますが、 もう水星はいなくなってしまいました。どうなったかと言うと、 現在は明け方の空に姿を見せいて、その後、 6月にはまた夕方西の空に登場します。

伝令のように早く動くこの惑星は、西洋では神々の使いである 俊足のメルクリウスという神さまに対応づけられています。 水星の英語での呼び名の マーキュリーはメルクリウスのことです。その動きから商業の神さまでもあります。

山形市立商業高等学校の校章はこのマーキュリーのシンボルに蛇が巻き付いたデザイン(図2) ですし、校歌に「マーキュリー 金にひかりて」(作詞、草野心平) という一節が あって商業の神さまとしての水星がここで使われています。

では、日本語の水星はどこから来たのでしょう。 古い中国の思想に万物は「木・火・土・金・水」の五元素から成り立つという、 五行説というのがあって、惑星も五元素に対応しているとされます。 どの惑星がどの5元素に対応するかは各惑星の見た目の性質から、なんとなくではありますが分かるような気がします。 硫酸の雲のために高い反射率をもってキラキラ輝く金星、 大気が薄くて表面の酸化鉄のために赤く燃える炎のような火星、 大気の色のため土色の土星、 明るくて元気な成長のイメージの木星、 地表から湧き出る泉の水のような動きをする水星。 ちょっとわざとらしい表現になっていますがこんな対応は自然のような気がします。

この対応と日(太陽)と月を加えた七曜歴というのが古代中国にあって 星占いをしていたそうです。 それが奈良時代には日本にも伝わっていたことまでは突き止めたのですが、 水星が何で水星になったかと言う問への明確な答えはまだ見つかっていません。

最後に水星表面の写真を御覧ください。これは月のクレーターではなく水星の表面です。 月と同様に大気の無い水星では生々しい隕石の衝突痕がいっぱい残されています。 太陽系の同胞として同じ歴史を辿ってきたのですね。

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図1 今年3月7日夕方西の空
(stellariumを用いて作図)
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図2  山形市立商業高等学校校章 
(これって著作権上、山商からの許可が必要でしょうか。)
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図3   水星の表面
(水星探査機メッセンジャーによる: NASA提供)
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