宇宙がもっと小さかった頃


図1の望遠鏡で見た夜空の写真には、 点状に輝く星はほとんど写っておらず、ぼんやりした丸や細長い丸や時には細い線状のものが たくさん写っています。大きさも色も様々ですがこの星ではないいろんな形や色のものは みな銀河です。宇宙にはこのようにたくさんの銀河が浮いています。   

その様子は、図2のブドウパンのように思えませんか。干しブドウの粒のひとつひとつが 銀河に対応します。

宇宙は膨張しているといいますが、これはちょうとパン種に干しブドウを入れて 寝かせておくと、イースト菌の働きでパン種がどんどん膨れていく様子に 似ています。パン種の小麦粉部分が膨らむと、 ブドウ同士の間隔は互いに広がっていきます。同じように、宇宙が膨張すると銀河は 互いに離れて、銀河同士の間隔は大きくなっていきます。

さて、Aという銀河に私たちが住んでいて、 銀河Bから発せられた光をAで私たち受けるとします(図2参照)。 光が出発したときAB間は近いのですが(図2上)、 宇宙膨張の性で光が到着したときには大分離れています(図2下)。 100億年昔に出発した光が今地球に到達したとすると、 この間に光の進んだ距離は100億光年ですが、 現在のAB間の距離は100億光年ではなくそれ以上広がっていそうですし、 出発したころのAB間の距離は100億光年よりずっと短そうです。

パン種の中を進む虫を想像してみてください。虫がパン種の上を一定の歩みで進んで いたとしても、パン種自体が膨張しているので、 虫の歩む早さと要した時間を掛けて求められる距離はいったいどこの距離だかわかりません。

このように、宇宙の中で距離の定義は簡単でないことが分かると思います。 おそらく頭の中は大混乱ですね。

ここで、面白いことがあります。図2のように光が2回続けて出たとします。 1回目の発光のあと1時間おいて、2回目の光を出したとしましょう。 長い旅の末、二つの光が相次いでAに到着しますが、その間隔はどうなっているでしょうか。 後から出た光はより膨らんだ宇宙を進んできたので、 到着時間が1時間よりも長くなることが証明されています。 宇宙の膨張に比例して二つの光の間隔が長くなります。

1時間の間をおいて出た光が到着の時、2時間間隔、つまり、2倍だけ間隔が広がっていたとすると、 その光が出たころの宇宙は現在の2分の1だったことがわかります。宇宙がそんなに小さかった ころ出発したのか、よく来たね、と声を掛けたくなります。

ハワイのすばる望遠鏡では、 8倍くらい間隔が広がった水素からの光を調べて、 宇宙が現在の8分の1くらいの大きさだったころの宇宙の様子を調べているそうです。

ちょっと長いので、パン種の虫の段落はカットしてもかまいません。



補遺 光の速度は一定ですから、上記の信号の間隔を光の周期とみると、光の波長が伸びている と考えることもできます。光の周期が2倍、波長も2倍になっていたら、その光は、 宇宙が現在の半分だったころ、発光した光ということになります。 光の振動数の伸びは赤方変移zとしてよくあらわされますね。 z=(ν0 - νobs)/νobs ここで、ν0は発光した原子の固有の振動数、νobsは観測された振動数。 1+z = ν0/νobs = λobs/λ0 = 現在の長さ/発信時の長さ = a_now/ a_old という関係が波長やスケールファクターa に成り立っている。

| もくじ に戻る|


画像をクリック(拡大)
図1 遥か遠くの夜空(NASA提供)


画像をクリック(拡大)
図2 宇宙膨張はブドウパンが膨らんだイメージ

http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/224-fig2.jpg
スライド
http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/224-fig2.ppt