おそろしいビーナス


秋の星座でいちばん目立つのは「みなみのうお座」の一等星フォーマルハウト (アラビア語で「魚の口」)です。みなみのうお座はギリシア神話では 海に身投げをして死んだ女神デルセトに因むものであることは150話で 紹介しました。この悲劇を仕組んだのは愛の女神ビーナスです。 ビーナスは英語ですが、ギリシャ神話ではアプロディテとよばれます。

愛の女神というと優艶でやさしい感じがしますが、神話の中では彼女を 崇めないもの(恋心を理解しないもの)には女神の恐ろしい罰が下るのです。 みなみのうお座になったデルセトの悲劇もアプロディテを尊敬しなかったのが そもそもの原因です。

最近、ギリシア神話を読んでいて女神の恐ろしさに気がついたので報告します。

だれもが知っていることではありますが強烈な恋愛感情は人間の心の バランスを崩してしまいます。側から見ているとおかしなことを平気で やったりしてびっくりします。極端な例では、みなみのうお座の お話のデルセトのように相手を殺したり、自殺したりという 事件に発展し、昔からいろんな物語のモチーフとして使われますね。

崇めなかった者へどのようにアプロディテが罰を与えるかというと、 変な相手に強烈な恋愛感情を抱くようにおまじないをかけるのです。

みなみのうお座のデルセトの時は神が人間に恋をして悲劇になるわけです。 他に、太陽神の娘パシパエの場合は、牡牛に恋させられ、結果として、 頭が牛、身体は人間というミノタウロスという怪物が生まれます。 英雄テセウスの後添えパイドラは義子ヒッポリュトスに恋をしかける はめになり、結局、ヒッポリュトスが自殺する悲劇になります。 アッシリアの王テイアスの娘スミュルナは父を愛し、 神によって木に変えられてしまいます。

いずれも愛の女神アプロディテに罰せられた結果で、愛の女神様の 恐ろしさを知らされる物語です。

怖い話が続いたので、みなみのうお座の見つけ方を紹介しておしまいにしましょう。 図のように秋の四辺形(ペガスス座)の一辺を南に伸ばすと簡単に見つかります。


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図1 11月上旬午後7時頃の南の空(Stellariumを用いて作図)
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