科学とは縁遠い星占いですが、その歴史は古いようで、 このコーナーのNo.247でも、源氏物語に星占い師が登場することを紹介しました。 宇宙の誕生も興味ありますが、 星占いがどのようにして誕生したかも気になります。
星空で起こるいろいろな現象が地上で起こる現象とつながっているという 考えは世界各地の古代の文明で見られます。 紀元前500年ころのメソポタミアの「ムル・アピン」と呼ばれる粘土板にくさび形文字で書かれた文章に 「かに座の星々がきらめくと大きな洪水が起こり、 ぼんやりしていると洪水が起きない」と書いてあります。 図1にちょうど今、かに座が見えているので洪水が起こらないか占ってみてください。 こういった日常の観察からでてきそうなことだけでなく 「金星がアイアル月(二月)に東方に出現し、金星が暗くなると、 エラム王は病気となり、生命の危険が及ぶようになる」 といった深刻な、国家の存亡にかかわるような記録もあります。 こちらは、紀元前1000年以上前の「エヌマ・アヌ・エンリル」 という約70枚の粘度板の膨大な資料の中のひとつです。 この粘土板集には7000もの天体現象と地上の出来事が書かれているそうです。
星空の動きと地上の出来事が神の力を通してつながっていると考えるのは 古代においては自然かもしれません。 さらに、そのつながりは繰り返すも、つまり、法則性があると古代の人は思っていました。 すると、記録を良く読むとこれから起こることが予言できることになります。 中国でも、大宇宙にある天と小宇宙にあたる人は、陰陽・五行の介在のもとに相互に つながっていて、 天子の政治の是非が空の現象になって表れるという考えをしています。
最初の星占いはこのように国家の大事や天災の予言などに使われていました。 しかし、ヘレニズム時代に入り、その応用として、 誕生したときの太陽・月・5惑星の位置で 個人の人生を占うこともはやり始めたようです。 最も古い占いのための星座図(ホロスコープ)は紀元前410年頃のものが知られています。
先に紹介した「ムル・アピン」には黄道12星座の原型も見いだせます。 こうして徐々に、星座や占い方法ができて来たのでしょう。 今、ちょうど出ているかに座とふたご座がメソポタミアで描かれていた様子を 図2に紹介しましょう。
図2 メソポタミアに伝わる「かに座と月」「大きなふたご座」の図像。
(近藤二郎著「星座神話の起源」より。)