夜空を見上げると非常に見やすい位置に北斗七星が伏せたフライパンのようにきれいに見えています(図1)。 北斗七星が七匹の豚というとびっくりしますか。 中国では豚はめでたい動物ですのでそんなにおかしくはないですね。
中国は唐の時代のお話です。 星占いの名人として有名な一行上人という天文学者がおりました。 上人が若いときたいへんお世話になった王婆という方が訪れて言います。 「息子が、無実の罪で裁判にかけられ長く囚われの身になっています。助けてください。」 しかし、上人は困ってしまいました。天文学者の立場では裁判に立ち入ることはできないからです。
上人はある夜、北斗七星を見上げると、なにやら深くお祈りをしました。 翌朝、人夫に「ふくろ横丁に入ってくるものがあれば、瓶に封じ込めよ」と命じました。 するとどうでしょう。七匹の豚がつぎつぎと横丁に入って来ましたので、人夫たちは上人の言う通り、 豚を瓶に封じ込みました。
その夜、天文台の役人たちが北斗七星が消えてなくなったことに気がつき天子様に報告します。 北斗の星が消えたということは政(まつりごと)におおきな誤りがあることの知らせです。 慌てて天子様は一行上人を呼び、何事かと尋ねます。 すると上人は、どこかで誤った裁判が行われているという証ですと言います。 翌日、すべての裁判が改められ、王婆の息子が誤って裁かれようとしていることがわかりました。 息子は、早速無罪で解放されました。
上人は急いで人夫たちに豚を逃がすように命じました。 こうして次の夜には再び北斗七星は天に戻り、上人は王婆に恩返しをすることができました。