金や銀といったら何を思い浮かべますか。
金や銀ででできたアクセサリーが欲しくて、 お金を稼ごうと思う人がいるかもしれません。 金や銀といった素材で工芸品を作ることに魅力を感じて、 銀細工や金細工の職人やアーティストを目指す人もいるかもしれません。 銀の微粒子は他の物質には見られない光学的、電気的、熱的特性を持っているので、 太陽電池やら、いろんなセンサーやら広い技術的用途があります。 そこで、金や銀を使った技術開発に専念する研究者もいます。
こうして見ると、人間の性格は十人十色。 ひとつ金銀を取り上げても、どう向き合うかは人それぞれです。
天文学者はちょっと変わり者ですから、 金銀との向き合いかたも変わっています。 私たち天文学者が考えることは、 「この宇宙になぜ金や銀が存在するのだろう」ということです。
この宇宙が出来た時に存在する元素は主に水素とヘリウムです。 私たちのからだを作っている炭素や酸素や窒素は、 星の中で合成されます。 宇宙誕生のときから存在するわけではないのです。 星のなかで作られたそれらの元素が宇宙空間に飛び散って、それを材料にして地球が出来、私たちのからだが作られました。 ところが、星の中心部では金や銀を作ることができません。 この宇宙において、金や銀を作ることは非常に難しいのです。
それでも最近の研究で二つの候補が浮かび上がっています。 一つは、太陽よりずっと重い星の中心部が落ち込んで、中性子星という種類の星ができる時です。 この時、超新星爆発とよばれる爆発が起こり、 中性子星の一部が飛び散ります。 爆発の様子は図1の様に実際に観測されています。 ほんの一秒くらいの時間なのですが、 飛び散る物質の中で金や銀の作られると予想されています。 これが一つの候補です。
もう一つはショートガンマ線バーストとよばれる宇宙最大規模の爆発現象の時です。 この爆発は、ふたつの中性子星が合体してブラックホールを作るときに起こります。 この過程で、中性子星の物質の一部が飛び散るのですが、 そのなかでも金や銀が作られると予想されています。
もし、金や銀の美しい姿にであったら、 宇宙のそんなドラマチックな爆風のなかで金銀は誕生したんだなと 想像していただけるといいなと思います。
図1 超新星爆発の残骸とその中心にできた中性子星からでるエネルギーで青白く光る星雲。(提供:NASA) (トリミングして右か左か一方の写真で十分だと思います。) http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/343-fig1.jpg 図2 中性子星が合体する直前の様子(スーパーコンピューターによる計算)。 ひものように見えるのは磁力線。(提供:NASA) http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/yamashin/343-fig2.jpg
参考: