聞いてはいけないこと

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科学の法則の作り方を説明したいと思います。
「なんで?」と聞いてはいけないことがあるとまず考えます。
一見不思議な出発点ですね。

ギリシア時代の力学では図1(上)で、だるまさんに「なんでじっとしているの?」
と聞いてはいけないことになっていました。
物体は静止するのは自然という理屈です。
従って図1(下)のように、
矢が等速直線運動していたら前に進んでいる原因を考えないといけません。
前に進む原因とはなかなか難しいです。
しかし、その原因となるパワーみたいなものが減衰すると、
静止状態になり落ち着くと考えるのは納得できます。

ガリレオやニュートンの力学では、
等速直線運動する物体に対してそれはなぜ?とは問いません。
それが自然なんだと納得することにしたのです。
なんとなく毎日している習慣のようなものです。
理由は聞かれてもわからないようなことは誰にでもあるのではないでしょうか。
惰性でやっていて、もしそれをやめるたらそこには理由があります。
また、新しいことを始める時にも何か理由があるはずです。


太陽系の中の地球の運動は太陽の周りの回転運動(公転運動)です。
等速直線運動ではないので、なんでまっすくじゃなくて曲がるのか?理由が必要です。
そこで、太陽と地球の間に万有引力(重力)が働いているからと理屈をつけます。

今度は銀河を見ます。銀河の星やガスは図2のように公転運動しています。
これは、NGC2841という銀河ですが、公転速度が測定されていて、
銀河の外の方、銀河中心から約83億天文単位のところで、
約280キロメートル毎秒で回転しています (1天文単位は地球と太陽の間の距離) 。

この回転速度は太陽の周りを回る地球の公転速度の約9.4倍です。
あとは簡単な計算でこの銀河の回転を生じさせる万有引力は太陽の何倍かが分かります。
速度の二乗と距離をかければいいので、9.4かける9.4かける83億で、答えは約7300億個の太陽分の引力となります。

そこでこの画像を解析してみるととてもそんなに沢山の星がないことがわかりました。
力学で予想される銀河の質量が銀河の画像の中で見えている質量より遥かに大きいのです。
ここで聞いてはいけないことを聞くことになります。
なんで銀河の公転運動は万有引力の法則と合わないのだろう。

一つの考えは、
質量を持った未知の物質が大量に存在するから。
もう一つは、
銀河くらい大きいサイズでは万有引力の法則が破綻するから。
前者を考える人が多く、未知の物質をダークマターと名づけてその正体を探そうとしています。
まだ、見つかっていません。
2番目の考えで、重力の法則を疑っている人もいます。

こうやって科学が進歩していきます。楽しいですね。




図1 聞いてはいけないこと http://www.shibatashinpei.jp/lib/yamashin/712-fig1.jpg
図2 渦巻銀河NGC2841 (提供:NASA) http://www.shibatashinpei.jp/lib/yamashin/712-fig2.jpg
本文終わり
パワポ http://www.shibatashinpei.jp/lib/yamashin/712-fig.pptx references will be note-712 712.f