空虚 今日は最先端の宇宙物理学の話をしましょう。 テーマは「空虚」です。 ガラスのビンのなかの空気を全部抜き取ってしまうと、そ こには真空ができます。何もない空虚な空間が真空です。 しかし、現代物理学が解明したところによると、その真空 は、たてよこ高さの3次元の空虚な空間ではなくて、いろい ろなものがそこに埋め込まれていることがわかっています。 紙に書いた絵を想像してみてください。絵の具やクレヨン で書かれている絵から、絵の具やクレヨンを取り去るとし ます。つまり、絵を書く前の真っ白な紙の状態に戻します。 そこは何も書かれていない空虚な面です。しかし、良く見 ると細い繊維が折り畳まれて紙ができています。何も描か れていない紙は確かな組織から成り立っています。 絵の場合の紙と同様に、何もないはずの真空も非常に複雑 なものが織り込まれています。織り込まれているもののい くつかは場(ば)と呼ばれます。そのなかに電場と磁場があ ります。電気や磁石は身近かなものですがこれは真空に織 り込められた性質なのです。 これが揺らぐと真空の中を波となって伝わります。それが 光です。光はすごく早くて一秒間に30万kmもの早さで伝わ ります。 紙の上に絵の具が置かれて絵になるように、宇宙の真空の 中に「物質」が置かれて、その物質から星ができたり、私 たち人間ができたりします。そして、全体として宇宙の絵 ができあがるのです。 図1は、小マゼラン星雲にある NGC 346という星団です。宇 宙空間にばらまかれた物質から星が作られ、そこから出た光 で描かれた絵ですね。この星団までの距離は21万光年。つまり、 ここにある星から出た光は空虚な空間を21万年の旅をして、 やっと地球に届いたのでした。 http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shiata/yamashin/80-fig1.jpg 図2 ハッブル宇宙望遠鏡による NGC 346とよばれる星団 (南半球からはみえますが、日本からは見えません。) (NASA提供) 画像をクリック(拡大)